夜の読書感想文:『ラブカは静かに弓を持つ』と深煎りケニアの雨音

夜の読書感想文

就寝前のひととき夢に至るまでの道すがら

休日の心休まるひととき

つかの間の時間、現実と乖離させて空想の世界を見渡す感覚

私の読んだ本の中でおすすめしたい一冊です

ラブカは静かに弓を持つ

少年時代、チェロ教室の帰りにある事件に遭遇し、以来、深海の悪夢に苛まれながら生きてきた橘。
ある日、上司の塩坪から呼び出され、音楽教室への潜入調査を命じられる。
目的は著作権法の演奏権を侵害している証拠をつかむこと。
橘は身分を偽り、チェロ講師・浅葉のもとに通い始める。
師と仲間との出会いが、奏でる歓びが、橘の凍っていた心を溶かしだすが、法廷に立つ時間が迫り……

想像を超えた感動へ読者を誘う、心震える“スパイ×音楽”小説!

集英社 文芸ステーションより引用

本屋のおすすめコーナーで、その静かな青い表紙が私の目を奪いました。
『ラブカは静かに弓を持つ』
そのタイトルが示す通りの美しいイラストに吸い寄せられ、私は本を手に取りました。
読み始めると、冒頭はホコリっぽい地下室。物語が進むにつれ、主人公の心を投影するように、深い海の底へと沈んでいくような錯覚に陥りました。
ずっと雨が降り続く物語の世界に、私も降り立ったかのようでした。

これは、チェロを武器に音楽教室へ潜入するスパイの物語です。
主人公が潜入に乗り気でなかったのは、昔経験したある事件によって、彼の心がまるで深海に囚われてしまったから。
そんな彼が潜入先で出会ったのは、太陽のように明るい男でした。
深海に太陽の光は届かない。それで良かったはずだし、そうであるべきだと彼は思っていたでしょう。
しかし、純粋に彼を照らし続けるその光は、やがて海の深い底、主人公の心に届いてしまうのです。
そこから始まる幸福と葛藤、裏切りの連続。
音楽がテーマであるはずなのに、チェロを奏でれば奏でるほど、心象風景は静かになっていく。
この静と動のコントラストがとてもリアルで、主人公と同調するほどに胸が高鳴り、苦しく、そして満たされていきました。
ラブカ、深海、スパイ、潜入。
一見連想しにくい言葉たちが物語の中で溶け合い、私に「彼のように、孤独な深海を照らしてくれる人といつか出会えるのだろうか」と思わせる一冊でした。

この本には、深煎りのケニアコーヒーをおすすめします。
深みがあり力強い低音から、歌うようなメロディーを生み出す中音、そしてバイオリンに近い明るい高音まで、多彩な表現力を持つチェロのように、深煎りの力強いコクと質感、黒い果実の甘みやスパイシーな風味が特徴のケニアコーヒーは、まさにこの物語にマッチしていると感じます。
多彩な音域のチェロと、豊かな果実味を持つケニアコーヒー。
深海のような重く暗い質感を持つ深煎りの味わいが、この本の世界観と深く共鳴するでしょう。

人の気持ちなんて、簡単にわかるものではない。
明朗快活に見える人ほど葛藤を抱えていたり、利権にしか目がないように見える人が、実は調和を重んじていたりする。
しかし、どんな人間でも、一度その温かさに触れてしまえば、自分の気持ちを完全に封じることはできないのだと思います。
心の奥底に葛藤を押し込めている人、音楽のように美しい物語に触れたい人。
そして、実話を元にした臨場感を味わいたい方に、ぜひ読んでいただきたいです。
この本を読んだあなたも、いつか、孤独な深海を照らしてくれるような太陽に出会えることを願っています。

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