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就寝前のひととき夢に至るまでの道すがら
休日の心休まるひととき
つかの間の時間、現実と乖離させて空想の世界を見渡す感覚
私の読んだ本の中でおすすめしたい一冊です
月とコーヒー
これは、忘れられたものと、世の中の隅の方にいる人たちのお話。
徳島書店より引用
喫茶店〈ゴーゴリ〉の甘くないケーキ。世界の果てのコインランドリーに通うトカゲ男。映写技師にサンドイッチを届ける夜の配達人。トランプから抜け出してきたジョーカー。赤い林檎に囲まれて青いインクをつくる青年。三人の年老いた泥棒。空から落ちてきた天使。終わりの風景が見える眼鏡──。
人気作家が腕によりをかけて紡いだ、とっておきの24篇。
本屋の棚に、ひっそりと佇んでいた一冊の本。
その黒くシンプルな表紙に興味を惹かれ、私はそっと手を伸ばしました。
吉田篤弘さんの『月とコーヒー』。長編の物語を想像しながらページを捲ると、そこにあったのは「甘くないケーキ」から始まる、珠玉の短編集。
その読みやすさと独特の世界観に、私はあっという間に惹き込まれていきました。
この本は、まるで物語の最も美味しい部分だけを小さく切り取ったようです。
コーヒー片手にサンドイッチを摘むように、あるいは眠りにつく直前、瞼が沈んでいくまでのひとときを、ゆっくりと過ごすのに最適な一冊でした。
それぞれの物語はサッパリとしていて、読んだ後に少しだけ物足りなさを感じるかもしれませんが、それがかえって「この続きはどうなるのだろう」というワクワク感を、最初から最後まで味わわせてくれます。まさに「生きるために必要な『太陽とパン』」ではなく、人生を豊かに「楽しむための『月とコーヒー』」というタイトルが、この本の全てを物語っているようでした。
私は特に、「白い星と眠る人の彫刻」と「三人の年老いた泥棒」の物語に、深く心を掴まれました。
この物語に特定の種類のコーヒーを合わせることは、おそらく難しいでしょう。
なぜなら、この多様な短編集のように、コーヒーの好みも人それぞれだからです。
豆を挽いて丁寧に淹れる一杯だけでなく、忙しい日のインスタントコーヒーでも全く問題ありません。読み手がその時、その瞬間に口にするコーヒーが、きっと物語に一番合うのだと思います。
『月とコーヒー』というタイトルが示すように、欠けてしまえば物足りない、あなたの日常に身近なコーヒーと共に、この本がもたらす穏やかな余韻を味わってほしいと願います。
休日の心休まるひととき、あるいは就寝前のつかの間の時間。現実から少しだけ離れて、空想の世界を静かに見渡したい方におすすめしたい一冊です。
この本が、夢に至るまでの道すがらに、あなたの心を優しく満たしてくれることを願っています。



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