夜、コーヒーを淹れる音と香りは、地上の私たちにとってごく日常の風景。
けれど、その一杯が地球を離れ、星々の間でも宇宙飛行士の心を温めているとしたら――
少し胸が高鳴りませんか?
無重力と一杯のコーヒー

宇宙では液体がふわりと浮かび、カップで飲むことはできません。
代わりに使われるのは、ストロー付きの特殊なパウチ。
地球でお湯を注ぐように、宇宙飛行士たちは温水をパウチに送り込み、粉末コーヒーを溶かします。
香りが空気中に広がることはありませんが、その温かさはパウチの中に閉じ込められ、ひと口ごとに無重力の孤独をやわらげます。
アポロ計画から続く地球の味
インスタントコーヒーが宇宙に初めて旅立ったのは、1960年代のアポロ計画の時代。
粉末コーヒーを水で戻し、ストローから口に運ぶ――。
その瞬間、静まり返った宇宙に広がるのは、ふるさとの記憶でした。
たとえ何百万キロ離れていても、一杯のコーヒーは「帰る場所」を思い出させてくれる特別な味だったのです。
日本の技術が支える一杯
日本のインスタントコーヒーも、確かに宇宙を旅しています。
若田光一さんや野口聡一さんといった日本人宇宙飛行士が宇宙で飲んだコーヒーは、日本のメーカーが開発した「宇宙用パッケージ」に詰められたものでした。
微小重力下でも粉が飛び散らないよう、特殊な顆粒加工が施されています。
無限に広がる漆黒の闇、その窓の向こうに瞬く地球。
そんな景色を前にして飲む一杯は、地上と変わらない「ほっとする時間」をもたらします。
宇宙では味覚も変わる
宇宙では嗅覚や味覚が鈍くなることが知られています。
血液や体液が上半身に集まり、まるで鼻風邪をひいたような状態になるためです。
そのため、宇宙食は地上よりも味を濃く調整されることが多く、コーヒーの風味も少し違った印象になると言われています。
「地球で飲むコーヒー」と「宇宙で飲むコーヒー」――同じ粉末でも、そこには距離だけでなく、味覚の旅もあるのです。
星々の間の安らぎ
国際宇宙ステーションの窓の外に広がるのは、果てしない星々と深い闇。
そんな場所での一杯は、単なる飲み物ではなく「心の避難所」です。
夜の読書が私たちの心に静かな余韻を与えるように、宇宙でもコーヒーは、小さな安らぎと日常の感覚をもたらします。
それは、地球を遠く離れた場所でも変わらない――人が人らしくいられる時間なのです。
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